2012.3.14 やさしさとして想い出として

いつかここ横浜に雪が降りました。
夜更け過ぎから降り出した雪は、次の朝にはすっかり町を白く呑み込んでいました。
何かを隠そうとしていたのか、それとも生まれ変わろうとしていたのでしょうか、瓦屋根に落ちた白い雪は、静かにじっとそこにうずくまり、いつまでも汚れた町を覆い隠していました。

春になれば、遠い北の国で雪の下から新しい命が顔を覗かせる。
ふきのとうが芽をだし、雷鳥が羽根の色を変える。
今はもうすっかり忘れてしまいましたけれど、僕の町に積もった白い雪の下には、どんな未来があったのだろうか。

人はいつかは、たったひとりで生きてゆくものですけれど、でも、自分を強くするにはたくさんのことを教えてもらわなければならない。自分が残した轍(わだち)が真っ直ぐである為には、まだ見ぬ目の前の道を間違わないように、足を踏み外さぬように、たくさんのことを教えて貰わなければならない。ささいなことを積み重ねて、小さなことを忘れずに。

「出会った人みんなに好かれるなんてあり得ない。ある人にはとてもいい人であっても、別のある人にとってはわがままに映るかもしれない。だから、自分から友達を切ってはいけないよ。自分が嫌われるのは自分の至らなさや自分のせいであって仕方ないけれど、自分が誰かを嫌いになるのは、それは自分の都合であってその人のせいじゃない。自分の小さな価値観で友達を切ってはいけないよ」

「○○君の家が散髪屋さんだから今度からそこへ行ってまけてもらうんだって言うけれど、それは違う。知り合いのお店へ行ってあげなさい、という意味は、同じお金を払うなら友だちのお店を儲けさせてあげたらいいということで、自分が得をする為じゃない」

「共同の駐車場のことですけれど、今度から全車前向き駐車にしましょう。端っこの方には大変ですけれど、どうぞお願いしますね。だって○○さん家たちの生垣が排気ガスで枯れちゃいますものね」

「A君にこれを探してきてってお願いをしたのに、違うB君から答えを貰ったからといって、後からA君が答えを持ってきてくれた時に、さっきもうB君から貰ったよ、なんてなぜA君に言うのさ。お願いしたA君にちゃんとありがとうってお礼しなくちゃいけない。B君から答えを貰ったってことは隠して、ちゃんとA君にありがとう助かったよって言わなくちゃ」

些細なことの積み重ねや小さなことの繰り返し。どこにでも転がっていることだけれど、でもちゃんと道標を付けないと見落としてしまうこと。僕には全然できていない。僕にはまだまだ学ばなければならないことがたくさんある。
些細なことだけれど、とても大切なこと。

それを教えてくれたのは親父でした。その親父が先日、逝きました。
もうあなたの涙もろさや真面目で真っ直ぐな生き方も見ることができません。
まだまだ聞きたいことがたくさんあるのに。僕の胸には見えないけれど、とても痛い針が刺さったままです。
でもそれは、あなただけのやさしさとして、帰らぬ想い出として・・・。

雪が積もった朝、青く晴れ渡った空から春の陽射しが降り注いでいました。白い雪は少しずつ融け始め、瓦屋根からは雪解けの水が流れていました。
きっとその雪解け水は、あなたの真っ直ぐな轍(わだち)へ流れて行くのだろうね。

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